ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志 松井彰彦 8 市場取引 2
戦略的取引
直接交渉
n=2のケースで考える
買い手の評価額が、どちらも売り手の仕入れ値より高い場合(つまりのとき)、どの売り手がどの買い手と交渉しようとも、二組の取引が成立する。
- 買い手1と売り手1、買い手2と売り手2が取引したときの総余剰は
- 買い手1と売り手2、買い手2と売り手1が取引したときの総余剰は
いずれにしろ、総余剰はである。
買い手の評価額が、どちらの売り手の仕入れより低い場合(つまりのとき)、取引はまったく成立しない。総余剰は0となる。
の時が問題となる。
買い手1は{売り手1、売り手2}の両方と取引できるが、買い手2は{売り手1}としか取引できない。
- 買い手1と売り手1が取引したときは(このとき買い手2は取引が成立する相手がいない)、総余剰は
- 買い手1と売り手2、買い手2と売り手1が取引したときの総余剰は
なのでよりとなる。つまり買い手1と売り手1だけが取引した方が総余剰は大きい。
取引が成立する数が多ければ、それだけ経済全体で見た余剰が大きくなるというわけではない。
直接交渉の場合、交渉の組のできかたによって総余剰が変化してしまう。直接交渉に任せる原始的な取引システムは余剰の損失が起こる可能性があり、これはミスマッチと呼ばれる現象の一つである。
ミスマッチという言葉で、売り手と買い手が交渉相手を見つけられない状況を指すこともある。
商品を労働と考え、売り手を労働者、買い手を企業と考えると、取引成立はすなわち労働者が賃金を支払われて雇用されるということになる。すべての労働者が雇用される場合よりも、1人だけ、それも適切な企業に雇用された方が、経済全体の余剰は増えるということを示唆している。
他の3つの取引形態では均衡では余剰を最大にする取引が起こる。他の取引形態では商品の価格(商品とお金の交換比率)が、参加者に共通の公開された情報になるため。
総余剰が大きいパターンでも全員が満足するとは限らない。
さきほどの例では、買い手2は2つめのパターンを好む.総余剰は少なくなっても、その方が自分が得するからである。
さきほどの例では、各人が2つめのパターンにおいて受けとる余剰を基準にして、1つめのパターンによって生じた余剰を適切に分配すれば、すべての主体を受け取る余剰が第1のパターンよりも大きくできる。
労働市場では「雇用されないプレーヤーに適切に余剰が補填される」という前提では、仮に失業者が出ても、余剰の大きな組み合わせで労働者が雇用される方が良い。
ただし余剰の再分配は、もっとも余剰を得ていた人にとっては余剰を下げられるのと一緒なので不満がでる。
以降の議論では、総余剰の大小で取引形態を評価して行くが、その背景には余剰が再分配されるという仮定があり、それは当然の基準ではないことに注意する必要がある。
仲買人のいる市場
- 仲買人は1人とする。
- 仲買人はpを決定し、その価格を見て売り手と買い手は取引するか決断する。
- 仲買人の利得は
- 売り手から出された商品の数と買いに要求された商品の数が等しければ(ちょうど過不足なく取引が成立するので)1
- そうでなければ(どちらかに余りがでるので)-1
- 誰も取り引きしなければ0
価格pが観察されたあとの(サブゲームでの)売り手と買い手の戦略は単純である。
- 売り手iはなら売っての利得を得る。
- 買い手iはなら買っての利得を得る。
このような価格受容行動が支配戦略となっている。
これから、仲買人の行動を分析していく。
次のグラフは、4人の場合について買い手の評価額を高い順に並べて整理したものである。
このグラフは仮に仲買人が価格p円を提示したときに、何人の買い手が買うかという関係も示している。
となるような価格pが提示されれば、買い手1と2は買うが、3と4には高すぎるので買わない事が次のように分かる。
このグラフは、価格とその時に価格受容的行動を取る買い手が買う(需要する)量との関係を表すので、この商品に対する需要曲線と呼ばれる。
次のグラフは、売り手の評価額を低い順に並べて整理したものである。
このグラフもまた、仮にこのグラフは仮に仲買人が価格p円を提示したときに、何人の売り手が売るかという関係も示している。
となるような価格pが提示されれば、売り手1と2と3は売るが、4には安すぎるので売らない事が次のように分かる。
このグラフは、価格とその時に価格受容的行動を取る売り手が売る(供給する)量との関係を表すので、この商品に対する供給曲線と呼ばれる。
需要曲線と供給曲線を重ねあわせたのが次の図である。
需要曲線は右下がり、供給曲線は右上がりなので,なら、二つの曲線はかならず交差する。数量xで交差していたなら、そこの評価額はx番目に低い売り手のものなので,交差部分の下端は,また、そこの評価額はx番目に高い売り手のものなので、交差部分の上端はとなる。図ではx=2なので{tex:B_2,S_2]が端点になっている。
を見たすようなは、仲買人の均衡戦略である。価格のもとでは、売り手も売り手も1〜x番まで取引に応じるので、過不足は生じないので仲買人の利得は、最大利得である1となる。
を上まわる価格をつけてしまうと売り手の方が多くなってしまう
を上まわる価格をつけてしまうと買い手の方が多くなってしまう
のとき交点はできないので別に考える必要がある。
- となるを選んだとき、その価格で売る売り手は1人以上存在するが、その価格で買う買い手は一人も存在しないので、過不足が生じて、仲買人の利得は-1になる
- となるを選んだとき、その価格で売る売り手は一人も存在しないが、その価格で買う買い手は1人以上存在するので、過不足が生じて、仲買人の利得は-1になる
- となるを選んだとき、その価格で売る売り手も、その価格で買う買い手も存在しないので全く取引が起きず、仲買人の利得は0となる。
仲買人は、のとき、となるを選ぶのが最適である。
このような仲買人のいる市場は完全競争市場と呼ばれ、仲買人が均衡で提示する価格のことは完全競争均衡価格と呼ばれる。
完全競争市場均衡では取引から生じうる総余剰が最大になっている。例では、1個だけ取引されたときの余剰より2個取引されたときの余剰の方が多い。3個以上取引されると負の余剰が発生るうのでやっぱり2個の時の余剰が良い。