ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志 松井彰彦 8 市場取引
戦略的取引
- 市場にはプレーヤーが2人いる
- 商品は一種類のみで、私的財である。
- プレーヤー1は商品を一つだけ持っている。
- プレイヤー1を売り手(Seller)と呼ぶ。
- プレイヤー1は、自分にとっての商品の価値がSだと知っている。
- プレーヤー1は商品を持っていない。
- プレイヤー2を買い手(Buyer)と呼ぶ。
- プレイヤー2は、自分にとっての商品の価値がBだと知っている。
- S≦Bのときに取引が成立すればB-Sの余剰が発生する。
- S>Bのときは、取引をしない方が得なので余剰は発生しない。
- プレイヤーは、お互いに商品の評価額を知っているとする。
直接交渉
買い手と売り手が取引の成立と価格について直接交渉する場合を考える。
のとき取引が合意されることはない。
のとき取引は合意され余剰はB-S発生する。
あとは、余剰をふたりで分けあう交渉の問題となり、(どちらが先にオファーを出すか、交渉が長びくにつれてどれだけの割合で余剰が減少するかにもよるが)おおまかに言えば余剰は半分づつに分配される。
仲買人のいる市場
取引を仲介する仲買人(a.k.a. Market Maker)のいる市場を考える。
仲買人の性質
- 仲買人は売り手から買いつけ買い手に商品を売りつける
- 売りさばけたら手数料を受け取る。
- 過不足が出たら自分で品物を何とかしなくてはならないのでペナルティーがある
- 取引価格の差別はしない。
仲買人のモデル
- 仲買人は取引価格pを表示し売買する。
- 利得は次のようになる。
- 売り手が商品を売り、買い手が商品を買えば(うまく売りさばけたので)1
- どちらか一方だけが取引に応じれば(過不足が生じるので)-1
- そうでなければ0とする。
仲買人は取引の活性化のみに興味を持つ。
仲買人の戦略の範囲
- pを自由に設定できる
- 「価格をオファーしない」というオプションもある(全員の利得は0となる)
(仲買人,売り手,買い手) | 売り手が | ||
---|---|---|---|
売る | 売らない | ||
買い手が | 買う | (1,p-S,B-p) | (-1,0,B-p) |
買わない | (-1,p-S,0) | (0,0,0) |
- B,Sは自然によって与えられ、その情報を全員が知っているとする。それゆえかかは自然が決定する。
- その情報を元に仲買人は「価格pを設定する」あるいは「価格をオファーしない」の戦略を採る。
- その価格を元に売り手、買い手は取引をするかしないか決定する。
価格pが観察されたとき支配戦略なるような
- 売り手の戦略は「安すぎれば売らない」
- ならば売り、なら売らない。
- 買い手の戦略は「高すぎれば買わない」
- なら買い、ならば買わない。
- 価格受容行動(price taking behavior)
- 観察された価格を与えられたものとして最善の支配戦略を選ぶ行動のこと。
「価格を所与として〜」という場合がそれ。「受容」するのが、この仲買人がいるときは支配戦略となる。
買い手と売り手のプレイヤーの行動の組は、どのサブゲームでもナッシュ均衡になっている。
仲買人にとってはとなるような全ての価格が均衡戦略である。
となるようなpを示されたとき、買い手は買うのが最適反応、売り手は売るのが最適反応なので、双方とも取引は成立し、仲買人の利得は、最大利得である1になるため、これ以上の戦略はない。
仲買人はとなるような価格を提示し、売り手も買い手も上記の支配戦略を採るのがナッシュ均衡。この場合はサブゲーム完全均衡でもある。
ナッシュ均衡なら他にもある。
例えば(仲買人は価格をオファーしない。売り手値段に関係なくは取引に応じる、買い手は値段に関係なく取引に応じない)はナッシュ均衡である。
「売り手値段に関係なくは取引に応じる、買い手は値段に関係なく取引に応じない」時、仲買人は「価格をオファーしない」が最適反応。
仲買人は「価格をオファーしない」の戦略を取ってるとき、
売り手も買い手もどんな戦略を取っても利得に変化はないので、「売り手値段に関係なくは取引に応じる」、「買い手は値段に関係なく取引に応じない」もまた、最適反応の一つである。
しかしながら、これはサブゲーム完全均衡でない。
というサブゲームに到達した場合は、買い手の最適反応は購入である。
今後はサブゲーム完全均衡ではないナッシュ均衡は無視する。
のときは取引が成立するような均衡は無く、仲買人が価格をオファーしないという戦略を取ってゲームが終わる。
- 売り手が取引に応じるのはのサブゲームにおいてだが,となるので買い手は取引に応じず、仲買人の利得が-1になる。
- 買い手が取引に応じるのはのサブゲームにおいてだが、となるので売り手は取引に応じず、仲買人の利得が-1になる。
- のサブゲームや「価格をオファーしない」では取引は全く成立しないが、利得は0である。
3番目の(いずれかの)_戦略が、他の戦略を弱支配しているので、仲買人は3番目の戦略を選び、取引が成立することはない。
販売店市場
- まず売り手がpを決める
- 買い手は価格pを見て、購入するかしないか決める
売買が成立したとき
- 売り手の利得はp-S(生産者余剰)
- 買い手の利得はB=p(消費者余剰)
総余剰は(p-S)+(B-p)=(B-S)となる。これは二人の取引で生じうる最大の余剰である。このとき、pは総余剰の、売り手と買い手の間での配分を決めている。
売買が成立しなかったとき,両者の利得は0である。
- S<Bのとき、余剰B-Sを分割するための売り手が最後通牒を突きつけることができる交渉ゲームになる。よって、売り手はp=Bにして余剰を全て要求し、買い手がそれを承認するのがサブゲーム完全均衡の解になる。
- S>Bのとき、売り手は価格をちょうどSにして、買い手は買わないのがサブゲーム完全均衡となる。
余剰は発生したとしても、売り手がすべて受け取る事になる。
競売買方式市場
- 競売買方式(order driven market)
- 売り手と買い手が注文を出し合って、その結果取引が成立する。
- 売り手の言い値がp、買い手の言い値がq
- p ≤ q ならば、取引は成立し、買い手がp円支払う
S < Bのとき,S < p = q < B となるp,qがナッシュ均衡となる。
- 売り手は、買い手の言い値がS < q < Bのとき、p=qにするのが一番利得が大きくなる(取引が成立し(p ≤ q、かつ支払われる価格pが最大になる)ので、これが最適反応である。
- 買い手は、売り手の言い値がS < p < Bのとき、p &le q < B となるようなqを選べば,利得はB-qになり最適反応である。p=qもp &le q < B に含まれているので最適反応である。
よってS < p = q < B となるp,qはナッシュ均衡である。
S > Bのとき、
- 売り手は自分の評価額以下の価格は注文しないので S < p
- 買い手は自分の評価額以上の価格は注文しないので q < B
なので、p > S > B > qより p > qなので取引は成立しない。