「まっとうな経済学」 ティム・ハーフォード 2

個別価格

がいるとする。

  • 価格>450円 の場合,AもBも購入を行わない。店の売り上げは0である。
  • 価格=450円の場合、Aは購入するが、Bは購入しない。売り上げは450である。
  • 価格=150円の場合、AもBも購入する。売り上げは300である。

このとき、店の最大売り上げは450となる。

しかし、それぞれの客に別の価格を提示できたなら、Aにはカプチーノを450円で、Bにはカプチーノを150円で売る事が出来るので、店の売り上げは600円となる。

しかし

と店に掲示するわけにはいかない。もっと巧妙にやる必要がある。

「気前のいい客が選びそうな商品」と「つつしまやかな客が選びそうな商品」を差別化して用意する事で同じ事ができる。

個別ターゲット戦略

第一級価格差別
顧客を個別に評価して支払い意思に応じた値段をつける:

中古車のセールスマンや不動産仲介業がしばしば行う。技能と努力がいるため、一般に高額な商品の場合に使われる。アフリカの貧しい国の土産屋の商人が客と交渉して値段を釣り上げようとするのもこれである。

スーパーマーケットでは客にデイゥカウントカードというものを使ってもらうことによって購買履歴を蓄積し、個別の支払い意思を推測して値下げクーポンを発行することにより、事実上の価格差別を行っている。(ただし気前のいい客に対して値上げはできない)

amazonはかつてユーザーの購入履歴を元に、ユーザーに個別の価格を提示していた。個人を特定できる情報を消去してからamazonを見ると値段が安く事が多かったためユーザーは反発し、amazonはこの戦略をやめた。

グループターゲット戦略

フロリダのディズニーランドは、地元の客の入場料を半額以下にしている。

  • 地元の人間は、値段が安ければ何度も来るかもしれない。
  • 観光客は、値段が高かろうが安かろうが、せいぜい1回しか来ないのが普通である。
自己価格弾力性(価格感応度)
値上げすると売り上げがどれだけ減り、値下げすると売り上げがどれだけ増えるのか:
  • 地元の客は価格感応度が高いので値上げすると売り上げがいっきに減る。
  • 観光客は価格感応度が低いので値上げしても売り上げがあまり減らない。

ここにグループターゲット戦略の余地がある。

ロンドンのウォータールー駅のコーヒーバーAMTは、近くに勤務先がある客はコーヒーの価格が一割引きとなる。これもグループターゲット戦略である。

ウォータースルー駅を足早に通りすぎる通勤者にとってコーヒーバーの選択肢は少ないし便利なら値段が高くても良いと考えている。つまり価格感応度が低い。
しかし、午前11時にコーヒーを飲みにオフィスを出る労働者はどこでもいける。他のコーヒーショップも知っていて大抵は使ったことがある<取引費用の一部である探索費用が低い。>その結果、価格感応度が高くなる。

個別ターゲット戦略は情報が大量に必要で評判も悪いが、収益性が高いため次々と手法が開発されている。グループターゲット戦略は有効性は低いが、より簡単であり、また受けいれられやすく、時として歓迎される事もある。

スーパーマーケットの場合

マークスアンドスペンサーはチェーン店である。
ロンドンのリバプールストリート駅のコンコースにあるリバプール店が、そこから500m離れたところにムーアゲート店がある。値段を比較するとムーアゲート店の方が15%安かった。リバプール店のターゲットは、多忙な都市労働者であり価格感応度が低いので値上げが出来る。

セインズベリーズもまたチェーン店である。
栄えた地域にある「トテナムコートロード店」と、それ程栄えてない「ダルストン店」では、同じ商品の値段は殆ど一緒だった。しかしグループターゲット戦略をやっていないわけではない。店は「客にとって魅力的」かつ「店にとって儲かるもの」が目に引くように配置する。

  • トテナムコートロード店で目に付く商品はどれも高いものだった。その商品の安い代替品を見つけるのは困難だった。価格感応度の低い客をターゲットにしていると分かる。
  • ダルストン店では、有名ブランドの商品のすぐ隣に安い代替商品が置かれていた。価格感応度の高い客をターゲットにしていると分かる。

価格ターゲティングに長けた企業は、利益拡大策を外見上は高潔な行動に見せる。

  • フェアトレードへの取り組みを宣伝しながら、フェアトレードコーヒーを高額で売る事で金払いのいい客を見つけていたコスタ・コーヒー
  • 高校生や老人に割引する。つまり労働者には値上げする。
  • 有機食品」を健康至高の人に高額で販売する。(原価は殆ど変わらない)

店舗間の価格の違いは、店舗間の価値の違いより、価格ターゲティングの違いに起因している事が多い。「安い店」で買うことより「安く」買うことを目指した方がよい。

特売戦略
目的客
もともと目的の商品が決まっている客:
特売客
特売の商品できるだけ購入しようとする客:

目的客は、通常では価格感応度が低い。特売客は、価格感応度が高い。
スーパーは目的客から金を引き出す高値路線か、特売客狙いの安値路線のいずれかが望ましい。目的客から十分に客を得られず、特売客が購入しないような中途半端な状況が最もよくない。ただ価格が常に高値ならば目的客も別の店に移っていくだろう。
そこで、特売を使って高値路線と安値路線の2極を行き来する。
(特売価格を値上げしたのが通常価格だと考える方が分かりやすい)

この戦略が成立するには二つの条件がある

  • 特売商品が常に入れかわる
  • 他の店に行って値段を比較するのが大変

何が安くなるかを簡単に予測できたなら、<目的客は特売されるのを待つ事にメリットを見い出すかもしれないし>特売になる目的の商品を変えるかもしれない。
店の値段を比較するのが簡単なら、値上げをしたら他の店で購入される可能性がある。

値上げをするときは、徐々に上げるよりも突発的に上げるのが効果的だ。突発的な値上げは避けにくい。事実上の同一商品に複数の値段を付けることもある。値上げされた商品の方は、普段は値段をチェックしていない人間を狙っている。スーパーマーケットを出し抜きたければ、値段の変化を細かく観測する事である。

その企業に本当に希少性はあるのか

企業の希少性は、しばしば消費者の怠惰によって生み出されている。他の店にいって同一商品の値段を比較したり、店の中で少し暗算したり、周りを見回して類似の商品との値段を比較したりするのを誰かが止めているわけではない。消費者の価格に対する鈍感さが価格ターゲティングのすきをあたえている。

価格ターゲティングの「漏れ穴」

「漏れ穴」その1:金持ちが安価な製品を買う可能性がある。

価格感応度が高い客に、高い商品を買わせないのは簡単だ。しかし、価格感応度が低い客に、安い商品を買わせないのは難かしい。価格差が小さいときは、価格感応度の低い客はそんなに注意して値段をみないので、高額な商品を買わせる事は十分に可能である。しかし額が大きくなるとうまくいかない。

価格ターゲティングの効果を高めるためには、高価な商品と安価な商品の差を誇張する必要がある。

  • 鉄道の三等車の乗り心地が悪いのは、乗り心地をよくするためのコストが高いからではない。金持ちの客が三等車に乗らないように品質を落としているのである。その結果貧乏人が割りを食う。
  • 世界各国の空港のロビーが貧相なのは、エグゼクティブラウンジを使ってもらうためにビジネスクラスのチケットを購入させたいからである。エコノミークラスの客が、ビジネスクラスやファーストクラスの客が降りるまで機内に拘束されるのも同じ理由である。
  • スーパーのプライベートブランドの商品のパッケージが野暮ったいのは、デザインにコストがかかるわけではなく、それを金持ちに購入させないためである。
  • IBMの低価格プリンター「レーザーライターE」は高級プリンター「レーザーライター」に「印刷速度を遅くするチップ」を追加したものである。レーザーライターEを金持ちに購入させないためである。
  • パッケージソフトのスタンダード版はプロフェッショナル版から機能を取り除いて作られる。金持ちにスタンダード版を買わせないためである。
「漏れ穴」その2:安価設定の対象となった客が、それを転売してしまう。

バス旅行・ディズニーワールド観光・サンドイッチ・コーヒーなどは、転売がしにくいので、あまり転売は問題にならなかった。
しかし、CD,DVD,ソフトウェア、医薬品などはそうではない。
いまやインターネットショッピングで世界中どこからでも商品を購入できるので対応が難しくなっている。そこでDVD業界はリージョンコードを作って、ある地域で販売されたDVDを他の地域で再生できないようにしている。これに反発した人達は、リージョンコードを取り除くプログラムを利用している。

よい価格ターゲティング

ピル社が画期的なエイズ治療薬を開発したとする。
まずピル社は価格ターゲティングを行ってないものとする。

このとき、豊かな国の国民は大金を払う。すると価格はつりあがる。
貧乏な国の国民にはとても手が届かなくなる。大勢の死人が出る。

ピル社は希少性の力を使って値段をつりあげている。ピル社の強欲ゆえに大勢の人が死ぬ。しかし、そもそもピル社は「大儲け」できると考えていなければ、そもそも治療薬を開発しようとなんかしなかった。そのときは、もっと死人が出ていたはずである。

そこで価格ターゲィングを行う。
豊かな国では、いままでの値段で、貧乏な国では安い値段で販売するとする。
ピル社は今より利益を得られるし、貧乏な国での死者も減る。
価格ターゲティングは効率性を向上させる。

ただし、貧乏な国から豊かな国へ治療薬が還流するようになると、豊かな国における利益が減少するために、貧乏な国での値引き販売をやらなくなってしまう。これは実際にアメリカとカナダの間に起きている問題である。

悪い価格ターゲティング

電車が常に満席だとする。
学生は50ドルの割引料金でビジネスマンは100ドルの通常料金払うことになっている。
電車に乗る事に95ドルの価値を認めているビジネスマンがいたとして、
55ドルの価値を認めていて(時間の余裕がある)学生が50ドルを払って既に乗り来んでいたとする。

このとき、学生に50ドル返した上に10ドルの保証金をつけて下車して貰う事で空席を作り、ビジネスマンにその席を90ドルで提供できる。

そうするとビジネスマンは5ドル得した。学生も5ドル得している。鉄道会社は30ドル得している。みんな幸せになれる。

しかし、実際にはそう上手くはいかない。100ドル払ってもいいと思ってた客が90ドルの切符を求めて辺りをウロウロするようになり、学生は補償金が目当てでともかく切符を買って乗車するだろう。このように価格ターゲティングが非効率である事はありえる。

価格ターゲィングが失敗して販売数量が増えず、商品を高く評価している人(ビジネスマン)から商品をあまり評価していない人(学生)に商品が移動するだけになれば、同一価格方式に比べて効率性は決定的に低くなる。価格ターゲィングが旧来の市場に影響を与えずに新しい市場を切り開くのであれば、同一価格方式に比べて効率性は決定的に高くなる。

その中間もある。グループ価格ターゲティングでは、新しい市場がひらける一方で、商品を高価値ユーザーから低価値ユーザーへと無駄に移動させてしまっているケースが多い。

書籍はハードカバーの単行本として出版され、その後価格の安い文庫本になる。
文庫本により新しい市場を作るのが目的だが、購入を先送りする人がでてくるのでハードカバーの売り上げが落ちる。