ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志 松井彰彦 5,情報とゲーム 3

資格を加味したゲームを考える。

  • 労働者は自分の能力が分かっている(その上で戦略を決める)
  • 低能力者が資格を取ると3単位失う
  • 企業は労働者の能力はわからないが、資格を持っているかどうかはわかる
  • 資格はシグナリングの機能のみを持ち、資格を持っていても生産性があがらないとする

つまり労働者の能力が高い場合、労働者が資格を取らない場合は、先程のゲームと利得に変化はないとする。

企業が、資格なし(右の情報集合)には低給、資格あり(左の情報集合)には高給としたとする。

このとき

  • 高能力労働者は、資格取得で利得が4、資格不取得で利得は3
  • 低能力労働者は、資格取得で利得が1、資格不取得で利得は1

能力があれば資格を取り、そうでなければ資格をとらないの最適な反応(のひとつ)となる。

その戦略を踏まえると「資格取得あり」の情報集合においては、能力高となる確率を1と見積り、「資格取得なし」の情報集合では、能力低の確率を1だと見積るのは合理的である。

この信念において
「資格取得あり」の人間に

  • 高給を払えば利得は2(=2*1+(-1)*0)
  • 低給を払えば利得は-1(=(-1)*1+2*0)

なので高給を払うのが最善

「資格取得なし」の人間に

  • 高給を払えば利得は-1(=2*0+(-1)*1)
  • 低給を払えば利得は2(=(-1)*0+2*1)

なので低給を払うのが最善

結果、最初に仮定した戦略の組は、均衡戦略だと分かった。

図示するとこうなる。これは分離型均衡である。

分離型均衡
プレーヤーが選ぶ観察可能な行動のおかげであるプレーヤーのみ知っていた情報の内容が相手のプレーヤーにわかるタイプの均衡

企業は先程と同じ戦略を取るが、労働者は自分の能力に関係なく資格取得という行動を取るとする。(低能力労働者は資格をとってもとらなくても利得はかわらなかったので、これも企業に対する最適な反応になっている)

資格取得側の情報集合では、もはや資格で能力は判別できないので合理的な見積りは1/2である。

この信念において
「資格取得あり」の人間に

  • 高給を払えば利得は0.5(=2*0.5+(-1)*0.5)
  • 低給を払えば利得は0.5(=(-1)*0.5+2*0.5)

なので高給を払うのは最適反応の一つ

これもまた均衡になっている。これは混在型均衡である。

混在型均衡
情報内容が相手にわからないような均衡のこと

ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志 松井彰彦 5,情報とゲーム 2

シグナリング・ゲーム

  • 企業は労働者に高給4、低給1のいずれかを与えることができる。
  • 労働者の能力の高低は半々の確率で決まる。
  • 労働者の能力が高いとき6生産できるが、労働者の能力が低いとき3しか生産できない。
  • 能力の高い労働者は、「利得が3得られる別の働き口」があるために、低給を与えられると、そこへ転職してしまい、結果として企業の利得は-1になるとする。

このとき、展開図表現は次のようになる。

(能力主義ゲーム)


企業は「能力が高い人間を高給で迎え(企業の利得2)、能力が低い人を低給で迎える(企業の利得2)」のがよい。期待利得は2(=2*\frac{1}{2}+2* \frac{1}{2})である。

問題は個人の能力が企業には分からない時である。今度は次のような展開図表現に表現されるゲームについて考える。

このとき

  • 企業は高給を払うと0.5(=(-1)*\frac{1}{2}+2* \frac{1}{2})
  • 企業は低給を払うと0.5(=2*\frac{1}{2}+(-1)* \frac{1}{2})

企業は高い賃金を払っても低い賃金を払ってもよい。
もし低い賃金を払うと(能力主義ゲームと比べて)高い労働者は損をする。
また企業の利得も能力主義ゲーム2から0.5に下がっている。

  • 企業は労働者の能力が知りたい!
  • 能力ある労働者は自分の能力を知らせたい!

ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志 松井彰彦 5,情報とゲーム

情報の構造
ありえる情報の内容を列挙したもの。

「自然」は戦略を自分の意思で選ばず、確率的に選ぶプレイヤーである。

  • 能力高い人の生産力は6単位
  • 能力高い人の生産力は3単位
  • 給与は能力に関わらず4単位

とする。

情報の構造は{{能力高}、{能力低}}

右側の節では「雇う」、左側の節では「雇わない」が最適な戦略でありナッシュ均衡である。しかしながら、これは被雇用者の能力が分かるときだけである。そのような情報がない状況での判断を考える。

同じ情報集合内では、同じ戦略を選ばなくてはならない。

情報の構造は{{能力高,能力低}}

ベイズ完全均衡

さきほどのゲームには原理的にバックワードインダクションは使えない。そうするとサブゲーム完全均衡はより優れた解概念であるが、情報集合内の点を切り離して独立したゲームとしては分析できないので、サブゲームは元のゲームただ一つとなり、そのナッシュ均衡を求めればよいということになる。

戦略
それぞれの情報集合内でどのような行動を決める

ここで企業の戦略は「雇う」「雇わない」の二つ。雇う時の平均利得は0.5,雇わないときの利得は0なので、雇った方が良いことになる。

信念
見積り確率の事

最初のゲームでは期待利得1、次のゲームでは期待利得0.5だったので、情報構造は最初のゲームの方が利得0.5だけ価値が高い。

ベイズ完全均衡(Perfect Bayesian Nash Equilibrium)
戦略の組とすべての情報集合における信念の組み合わせのうち次の要請を満たすもの
  • 最適反応:各プレーヤーは相手の戦略に対して自分の信念の下で自分の期待利得を最大にしている
  • 信念の合理性:信念は確率法則に反さない


ベイズ完全均衡で用いられる戦略の組はサブゲーム完全均衡になっている。(逆は必ずしも成りたたない)

ナッシュ均衡⊃サブゲーム完全均衡⊃ベイズ完全均衡

プレイヤー2は「プレーヤー1が家事をやる」と仮定しているとき、右側の節に1、左側の節に0を見積る。この信念の元に家事をやれば期待利得は2、家事をやらなければ期待利得は3なので「やらない」が最適な反応。

プレーヤー1は相手が「やらない」とき、自分も「やらない」のは、最悪の結果になるので、「家事をやる」のが最適反応。

{プレイヤー1:やる,プレイヤー2:やらない,信念:プレイヤー1は100%やる}はベイズ均衡

同じよう考えていくと

{プレイヤー1:やらない,プレイヤー2:やる,信念:プレイヤー1は100%やらない}もベイズ均衡

ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志 松井彰彦 6オークション 3

入札最低価格と最適オークション

「商品が必ず売られるという前提」の無い場合を考える。
商品が売り手にとって価値がないのならば捨て値でも売れた方が得だから、商品は必ず売られるように思える。しかし、実際には最低入札価格を設定し、売れなければ捨てた方が得になる。

評価額が、最低入札価格よりちょっとだけ上だとしたら、評価額の半分を入札したりはしない。そうすると最低入札価格を下回ってしまうので利得は0になる。最低入札価格を入札すれば、それと比べれば評価額ー最低入札価格の利得は少しだけあるので、そっちの方がよい。
このように、最低入札価格を設定することで、高めの入札価格を書くことが想像される。最低入札価格を高くしすぎて全ての人の評価額を越えてしまうと商品を捨てるはめになるのでよくない。
補論2の議論より、最低入札価格がa(0≤a<1のときの買い手iの均衡戦略は次のようになる。

  • もしV_{i} < aならば、入札金額は0,
  • もしa \le V_{i}ならば、入札金額は P_{i}(V_{i})=\frac{1}{2}(V_{i}+\frac{a^2}{V_{i}})

相加平均 ≥ 相乗平均より

\frac{V_{i}+\frac{a^2}{V_{i}}}{2} \ge \sqrt{V_{i}\frac{a^2}{V_{i}}}= a

となるので、最低入札価格を必ず上まわる。

a=0とすると最低入札価格のないケースになる。

補論2の議論より、売り手の期待収益は2(\frac{1}{6}+\frac{1}{2}a^2-\frac{2}{3}a^3)で、これが最大になるのはa=\frac{1}{2}のときで、最大値は\frac{10}{24}となる。
期待収益は最低価格を設定することで\frac{1}{3}から25%も増加している。

売れなかった後にもういちどオークションをしてはならない。そうすると、それを見越して低い入札額になる。それを考えると、売り損ねると余剰が0になるので、経済的効率性からは関心できない。

ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志 松井彰彦 4,交渉ゲーム 3

n段階交渉ゲームの式

数学的機能法を用いる。n=1,n=2のときのゲームは既にとけているので前提とする。

nを奇数(最初にオファーするのはプレイヤA)とする。

n-1段階までのゲームが既に解けており、そのゲームでの結果が

第1段階でBがx_{n-1}をオファーし、それをAが承諾する

というものだったとする(帰納法の仮定)

「n段階交渉ゲームで最初にオファーするのはプレイヤA」なので「n-1段階交渉ゲームで最初にオファーするのはプレイヤB」

n段階交渉ゲームの第1段階でBが拒否したとき、仮定より

Bが\delta x_{n-1}をオファーし、それをAが承諾する

のだから、2段階目にもつれこんだ後どうなるかは分かっている。

第1段階にAがするオファーをx_{n}とおく。
Bは

  • 拒否すれば\delta (1 - x_{n-1})
  • 承諾すれば1-x_{n}

もらえるので

  • 1-x_{n} < \delta (1 - x_{n-1})のとき拒否
  • 1-x_{n} = \delta (1 - x_{n-1})のとき拒否か承諾(承諾するとしておく)
  • 1-x_{n} > \delta (1 - x_{n-1})のとき承諾

プレーヤーAはBが承諾してくれる範囲でもっとも得する値を選ぶ。つまり1-x_{n} \ge \delta (1 - x_{n-1})を満す範囲でできるだけ大きいx_{n]をオファーすればよい。

n段階交渉ゲームでは

第1段階でAがx_{n} = 1- \delta (1 - x_{n-1})をオファーし、それをBが承諾する

n+1段階ゲームでは、最初にオファーするのはBである。

  • x_{n+1} < \delta x_{n}のとき拒否
  • x_{n+1} = \delta x_{n}のとき拒否か承諾
  • x_{n+1} > \delta x_{n}のとき承諾

承諾してくれる範囲でBのシェア1-x_{n+1}が大きくなるような、つまりx_{n+1}が小さくなるようなものを選ぶ。

x_{n+1} = \delta x_{n}

前の式を使ってx_{n}を消去すると


x_{n+1} = \delta ^ 2 x_{n-1}+ \delta - \delta^2

これを変形すると

x_{n+1} - \frac{\delta}{1 + \delta}= \delta^2 [x_{n-1} - \frac{\delta}{1 + \delta}]

よって

x_{n+1} - \frac{\delta}{1 + \delta}= \delta^{n-1} [x_{2} - \frac{\delta}{1 + \delta}]=\frac{\delta^{n+1}}{1+\delta}

なので

x_{n}= \left \{\begin{array}{l} \frac{1+\delta^{n}}{1+\delta} (n (mod) 2 = 1) \\ \frac{\delta+\delta^{n}}{1+\delta} (n (mod) 2 = 0) \end{array} \right.

\lim_{n \rightarrow \infty} x_{n}= \{\begin{array}{l} \frac{1}{1+\delta} (n (mod) 2 = 1) \\ \frac{\delta}{1+\delta} (n (mod) 2 = 0) \end{array}

nが十分に大きいとき、δが0に近いときは最後通帳ゲームになり、δが1に近いときは、取り分の比は1:1に近づく。

ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志 松井彰彦 4,交渉ゲーム 2

n段階の交渉ゲーム

3段階の交渉ゲーム

Bは

  • 1 - x3 >= δ(1-δ)の時に承諾し、Aの利得はx3
  • 1 - x3 < δ(1-δ)の時に拒絶し、Aの利得はδ^2

式変形して

  • δ^2+(1-δ)>= x3のとき承諾されx3に。
  • δ^2+(1-δ)< x3のとき拒絶されδ^2に。

δ^2+(1-δ)>δ^2より、Aはδ^2+(1-δ)をオファーした方が良い

とりあえず結果から



δ=0.8のときの結果(5回まで)
ゲームの長さ最初の提案者AのシェアBのシェア
1A10
2B0.8=1 * 0.8 0.2
3A0.84=1-0.160.16=0.2 * 0.8
4B0.672=0.84*0.80.328=1-0.672
5A0.736=1-0.26240.2624=0.328*0.8

第n回交渉ゲームでは、一回目で拒絶されたときのサブゲームである第n-1回交渉ゲームでの相手の利得を、(ただし、一度拒絶されて時間がたっているために、全体の取り分はσに減っている)既得権だと考えて、それ以上かつ最低限、つまりジャストを、相手が得られる量として提供することで許諾してもらい、残りをいただくのだと考える。



δ=0.8のときの結果(5回まで)
ゲームの長さ最初の提案者AのシェアBのシェア
1A1-b10
2Ba1 * δ1-a2
3A1-b3b2 * δ
4Ba3 * δ1-a4
5A1-b5b4 * δ

delta = 0.8

b 1 = 0
b n | even n = 1 - a n 
    | odd  n = delta * b (n-1)


a n | even n = delta * a (n-1)
    | odd  n = 1 - b n
 

実行結果

*Main> a 1000
0.4444444444444446
*Main> a 999
0.5555555555555557

*Main> b 1000
0.5555555555555554
*Main> b 999
0.4444444444444443

*Main> 1/(1+0.8)
0.5555555555555556
*Main> 0.8/(1+0.8)
0.4444444444444445

ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志 松井彰彦 4,交渉ゲーム

経済的価値創造

余剰の源泉

  • 生産
  • 取引
  • 効率化(無駄を無くす)

最後通帳ゲーム

まずAがシェアx1(0〜1)をオファーする。Bは受諾か拒否を選択でき、拒否すると両者の取り分はともに0になる。

このときBは、拒否して自分の取り分が0になるよりはマシなので、相手がどんなオファーをしてきても受諾する。相手が1をオファーしてきたときですら、受諾しても拒否しても取り分は変わらないので拒否する意味はない。

よってバックワードインダクションの解は(x1=1,どのようなx1でも受諾)になる。

2段階交渉

まずBがx2をオファーする。

  • Aが受諾したらA,Bの取り分は(x2,1 - x2)となり終了。
  • Aが受諾しなかったら、何らかの原因で全体の取り分は減少してδになる。そしてAがx1をオファーする。
    • これをBが受諾したらA,Bの取り分は(δx1,δ(1-x1))となり終了
    • これをBが拒否したらA,Bの取り分は(0,0)となり終了

この時、このような図となる。

バックワードインダクションで考えていく。第2段階のサブゲームは最後通帳ゲームと同じなので、Aが独り占めしてしまう。しかし取り分の全体が減少しているため、このときAがδ、Bが0となる。

第2段階にもつれこんだらどうなるかが分かったため、展開図を書き直す。

Aは

  • x2 < δのとき拒否
  • x2 = δのとき拒否か承諾(簡単のため、承諾してくれるとする)
  • x2 > δのとき承諾

する。

Bは取り分を大くしたいが、Aに拒否されると第2段階にもつれこみ取り分が0になるので、δをオファーする。

「Aの取り分はδ、Bの取り分は1-δ」がバックワードインダクションの解となる。