ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志 松井彰彦 7 公共財 3

(http://wiredvision.jp/blog/kojima/200710/200710272250.htmlの記事も参考になる。)

Groves-Clarke メカニズム

評価の申告額を変えることによって、自らの負担金を減らすことができた事に問題があった。正しいインセンティブを与えるには、負担金が申告額に依存せずに決まらなくてはならない。

Groves-Clarke メカニズム

  1. 各プレイヤーはr_{i}を、自分の評価額として申告する。(真の評価額v_{i}と等しい必要性はない)
  2. 申告額の総額が総費用より大きければ(r_{1}+r_{2} \ge c)、公共財を生産する
  3. 生産するときには、第iプレイヤーの負担額は、総費用から相手の申告した額を引いたものとする。第1プレイヤーの支払う額はc-r_{2},第2プレイヤーの支払う額はc-r_{1}となる。

戦略(r_1,r_2)が採られたとき、

  • 第1プレイヤーの利得p_1

p_1=\{\array{v_1+r_2-c && \text{ if } r_1 + r_2 \ge c \\0  && \text{ if } r_1 + r_2 \lt c}

  • 第2プレイヤーの利得p_2

p_2=\{\array{v_2+r_1-c && \text{ if } r_1 + r_2 \ge c \\0  && \text{ if } r_1 + r_2 \lt c}

各自の最終的な利得に、自身の申告額が含まれていない所が重要。


Groves-Clarke メカニズムは正直に申告させるような正しいインセンティブを与えているか。

プレーヤー1にとって、自分の評価を正直に申告する戦略(r_1=v_1)が、相手のどのような戦略r_2に対しても弱支配することを示す。(つまり、正直こそが弱支配戦略であることを示す。)

まずv_1r_1' \lt v_1となるr_1'を弱支配していることを示す。(つまり、実際の評価額より小さな額を申告しても得が無い事を示す)
3つのケースに分けて考える


  • v_1+r_2-c \gt r_1' + r_2 - c \ge 0のとき、戦略v_1でも戦略r_1'でも公共物は生産され、利得はv_1+r_2-cとなる。
  • v_1+r_2-c \gt 0 \gt r_1' + r_2 - cのとき、戦略v_1なら生産され利得はv_1+r_2-cで、これはこの状況では正であり、戦略r_1'のときは生産されず利得は0であるので、v_1r_1'より厳密に望ましい。
  • 0 \ge v_1+r_2-c \gt r_1' + r_2 - cのとき、戦略v_1でも戦略r_1'でも公共物は生産されず、利得は0となる。


次にv_1r_1' \gt v_1となるr_1'を弱支配していることを示す。(つまり、実際の評価額より大きな額を申告しても得が無い事を示す)
3つのケースに分けて考える


  • r_1' + r_2 - c \gt v_1+r_2-c  \ge 0のとき、戦略v_1でも戦略r_1'でも公共物は生産され、利得はv_1+r_2-cとなる。
  •  r_1' + r_2 - c \gt 0 \gt v_1+r_2-cのとき、戦略r_1'なら生産され利得はv_1+r_2-cで、これはこの状況では負であり、戦略v_1のときは生産されず利得は0であるので、v_1r_1'より厳密に望ましい。
  • 0 \ge r_1' + r_2 - c \gt v_1+r_2-cのとき、戦略v_1でも戦略r_1'でも公共物は生産されず、利得は0となる。

以上からr_1=v_1が弱支配戦略になっている事が示される。これはプレイヤー2にとっても同じ事である。

  • 公共物が生産されるときはプレイヤーの利得は非負である。
  • 各プレイヤーは正直に評価額を申告しv_1+v_2 \gt cのときのみ公共物が生産される。

これで全ての問題は解決しかたのように思えるが、実際は各プレイヤーの負担した額を合計しても、公共物の生産費用に届かない。


それぞれプレイヤーは正直に申告する(r_1=v_1,r_2=v_2)ので、プレイヤー1の負担はc-v_2、プレイヤー2の負担はc-v_1となる。このとき負担の総額は(c-v_2)+(c-v_1)=c+(c-(v_1+v_2))となる。v_1+v_2 \ge cだったので(c-(v_1+v_2))は負となり、プレイヤーの負担総額は生産費用のcより小さい。

このメカニズムは個人に正しい申告をさせるために余計な費用をかけてしまう。

「人に本音を言わせるのは、ただでは無理で、場合によってはとても高くつく」、ということ。だから、社会においてその構成員に正しいインセンティブを与えるためには、非常に大きいコストを要する可能性が高く、効率的な経済活動というのは口でいうほど簡単ではない、ということなのだ。

http://wiredvision.jp/blog/kojima/200710/200710272250.html

情報の非対称性を解消するために社会的に費用がかかるケースをいままでも見てきた

  • 第5章では労働者の能力が解らないがために社会的に無駄が生じる可能性を見た
  • 第6章では売り手は書い手の個人情報を知らないために余剰をいくぶん取り損なった。

公共財のケースも同様で、余計な費用を無くす事はできない。

ただし、その費用(情報非対称性の社会的費用)を、個人側に追加負担させるメカニズムはある。それが修正GCカニズムである

ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志 松井彰彦 7 公共財 2

集団的意思決定とインセンティブ


2人のプレイヤーについて考える。

  • プレーヤーiにとって、公共財の価値はv_{i}、公共財生産のための費用をc_{i}とする。プレーヤーiはv_{i}までは支出してもよい。プレイヤーiが受けとる余剰はv_{i} - c_{i}なので、プレイヤーiにとってv_{i} \gt c_{i}なら生産された方が良い。
  • 公共財生産の総費用をcとする。このとき、v_{1}+v_{2} \lt cなら公共財は生産させるべきではない。また、c_{1}+c_{2} \gt cでなくては生産はできない。
  • 余剰の総額をsとする。s=v_{1}+v_{2}-cである。

v_{1}+v_{2} \ge cのとき、c_{1}+c_{2} = c(つまり無駄がない)なら総余剰は総費用を上まわる。
しかし例えばc = c_{1}ならv_{1} - c_{1}が負になってしまうかもしれない。そこで余剰を仲良く分配すればよい。

c_{1}=v_{1}-\frac{s}{2},c_{2}=v_{2}-\frac{s}{2}にすれば

  • c_{1}+c_{2}=v_{1}-\frac{s}{2}+v_{2}-\frac{s}{2}=cになるので共有財の生産が可能である。
  • v_{1}-c_{1}=\frac{s}{2},v_{2}-c_{2}=\frac{s}{2}になるので、両プレイヤーの受けとる余剰も正となる。

公共財は生産された方がよい。


公共財の生産に関する決定する主体を政府と呼ぶのなら、政府は、評価額の和が費用を上回るときに、公共財を生産を決定すべき、ただし費用の配分には注意が必要。


cは分かっているとき、v_{1}+v_{2}>cであるとき、かつその時に限って、公共財が生産されるような手続きは何か。

両者の評価額がわかっているとき

それぞれの評価額v_{i}がわかっていれば

  1. 総評価額が総費用を下回ったとき(v_{1} + v_{2} \lt c)は生産をやめ、総評価額が総費用を上回ったとき(v_{1} + v_{2} \ge c)、生産を行うことを決定する
  2. 第iプレイヤーの受け取る純余剰が0以上(v_{i}-c_{i} \ge 0 )になるように、それぞれのiについてc_{i}の値を決めていく
  3. 両者に投票をさせ両者が賛成するときにのみ公共財をつくると宣言する。

その時の戦略形表現はこのようになる

多数決による解決
プレイヤー2
賛成反対
プレイヤー1賛成v_{1}-c_{1},v_{2}-c_{2}0,0
反対0,00,0

両者とも賛成するのが(弱支配戦略)による均衡になる。

評価額を本人しか知らないとき。


費用を公的に負担することにして、評価額を尋ねたとしたら、過少申告はなくなるが、ただなら作ってもらった方が得なので、逆に過大申告が発生しv_{1}+v_{2} < cのときですら公共財が生産されて全体として無駄になる。

プレイヤーに評価額を聞いてみたらどうなるか。
もしプレイヤーが評価額を正直に答えてくれるのならば「両者の評価額がわかっているとき」の手続きを使えばいい。

プレイヤーiの申告額をr_{i}(r_{i} \ge 0)とする。
プレイヤーの戦略はr_{i}を決めることである。
申告に基づく余剰をs^*とする。s^*=r_{1}+r_{2}-c

先程の手続きによると
r_{1}+r_{2} \ge cなら公共財は生産され,プレイヤーiの負担はc_{i}=r_{i}-\frac{s^*}{2}となる。
このとき、v_{i}-c_{i}=v_{i}-r_{i}+\frac{s^*}{2}=v_{i}-r_{i}+\frac{r_{1}+r_{2}-c}{2}=v_{i}+\frac{r_{1}+r_{2}-2r_{i}-c}{2}
戦略の組(r_{1},r_{2})が取られたとき、プレーヤーの利得は

  • r_{1}+r_{2} \ge cなら,プレイヤー1はv_{1}+\frac{-r_{1}+r_{2}-c}{2}、プレイヤー2は

v_{2}+\frac{ r_{1}-r_{2}-c}{2}となる

  • そうでなければ両方とも0になる。


v_{1}+v_{2} \ge cのとき、どのような戦略の組が均衡となるか。

プレイヤー1はr_{1}+r_{2} \ge cのとき、つまりr_{1} \ge c - r_{2} の条件下で、プレイヤー1の利得v_{1}+\frac{-r_{1}+r_{2}-c}{2}が大きくなるよようにr_{1}を設定したい。そのためにはr_{1}をできるだけ小さくしたいが、r_{1} \ge c - r_{2} の条件があるので、最小値はr_{1} = c - r_{2} である。このとき、プレイヤー1の利得はv_{1}+r_{2}-cになる。これが0(r_{1}+r_{2} \ge cでないときの利得)よりも大きくなる条件はv_{1}+r_{2}-c>0つまりr_{2}>c-v_{1}である。
つまり、プレイヤー1はr_{2}>c-v_{1}ならr_{1} = c - r_{2} とするのがr_{2}への最適反応戦略。同様に、プレイヤー2はr_{1}>c-v_{2}ならr_{2} = c - r_{1} とするのがr_{1}への最適反応戦略。


相手の申告額を所与としたとき、公共財ができる範囲で、できるだけ自分の申告額を少なくするのが最適な行動になる

ナッシュ均衡は無数に存在する。

  • 余剰の半分を自分の権利として申告する場合もナッシュ均衡 (r_{1},r_{2})=(v_{1}-\frac{v_{1}+v_{2}-c}{2},v_{2}-\frac{v_{1}+v_{2}-c}{2})
  • プレイヤー1が余剰の全額を受け取り、プレイヤー2が正直に申告して余剰を受けとらない場合もナッシュ均衡 (r_{1},r_{2})=(c-v_{2},v_{2})

いっぽうv_{1}+v_{2} \lt cであるときに最適反応を考えるとr_{2} \ge c - v_{1}r_{1} \ge c - v_{2}は同時に成立しないため、公共財が生産されないように(r_{1}+r_{2} \lt c)となるような、例えば(r_{1},r_{2})=(0,0)が均衡となる。


v_{1}+v_{2} \lt cのとき,r_{2} \gt c - v_{1}だとすると、プレイヤー1は自分の申告額r_{1}=c-r_{2}の式によって決定する。

  1. c \gt v{1}+v{2}よりc - v_{1} \gt v_{2}であり、r_{2} \gt c - v_{1}だったので、r_{2} \gt v_{2},
  2. r_{1}=c-r_{2}よりr_{2}=c-r_{1}なので,r_{2} \gt v_{2}に代入してc-r_{1} \gt v_{2},その結果、r_{1} \lt c -v_{2}となる

r_{2} \ge c - v_{1}r_{1} \ge c - v_{2}は同時に成立しない。

申告は正直ではなかったものの、「公共財への評価額の総額が、公共財の生産費用を越えたときに、そしてそのときに限って生産される」ようなカニズムは存在することがわかった。

カニズム
あるルールを定めて、あとは各個人の自由意志に委せて自動的に政府等の行動を決定する方法・手続きの事

ただし、いままでの議論では(政府はプレーヤーの評価額について知らないものの)各プレーヤーは相手の評価額を正確に知っていることが前提となっていた。

各プレーヤーが相手の評価額を知らない状況で使えるメカニズムが必要である。
問題は評価額を正しく申告しないことにあった。それは、正しく申告することが得にならないからで、政府の思惑どおりに行動を取るメリットがないからだった。ゆえに、政府は、各プレーヤーにインセンティブを与える必要がある。

インセンティブ(誘因)
各プレーヤーの行動に影響を与えるであろう刺激(の手段)

政府が期待する行動には金を払ったり、そうでない行動には罰を与えたりするようにして、必要な情報を申告させなければならない。

ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志 松井彰彦 7 公共財

公共財とフリーライダー

消費の排除可能性
経済主体による消費の可能性を排除できるような財の性質
消費の競合性
ある経済主体の消費量の増加が、他の経済主体の消費量を減少させるような財の性質
純粋公共財
排除不可能かつ競合的でない財
私的財
排除可能で競合的な財
(准)公共財
純粋公共財と私的財の中間

一般放送のサービスは、受信させないようには出きないので、排除可能性を満さない。受信しても、他の人が受信できなくなったりしないので競合性もない。

ケーブルテレビは、特定の家に受信させないようにできるので排除可能性を満たす。しかし誰かの受信が他の人の受信を妨げたりはしないので競合性がない

クラブ財
排除可能性は満たすが、競合性は無いような財

一般道は、排除不可能だが、人が増えると混雑するので競合的である。

排除可能 排除不可能
競合性消費可能 私的財 コモンプール財
非競合性 クラブ財 純粋公共財
財の種類 排除可能性 競合性
純粋公共財 × × 一般放送
クラブ財 × ケーブルテレビ
コモンプール財 × 一般道
私的財 食品
公共財という性質は、必ずしもモノに固有の物理的特性ではない。
私的財でありえるものが、政策によって公共財になっているものもある。消防、警察は競合性があり排除も可能である。(実際に民間警備サービスがある)駐車場も、やり方によっては排除可能性を持たせる事はできる。
フリーライダーの問題(free rider problem)
排除不可能な財は、生産されてしまえば便益を誰でも享受できるので、その財の生産費用を負担しない方が得となる。各経済主体がそのような戦略を取ると、誰も費用は負担されないので財は生産されない。


「まちのパン屋」と「ベーカリー」が駐車場をつくる議論をしている。

  • 駐車場を作るには6万かかる。
    • 片方だけが賛成したときには、片方が全額6万払って駐車場を作る
    • 両方とも賛成したときには、それぞれ3万づつ払って駐車場を作る
  • 駐車場が作られれば、双方とも利益が5万増えるとする

このとき、戦略形表現は次のようになる。

フリーライダーの問題
ベーカリー
賛成反対
まちのパン屋賛成2,2-1,5
反対5,-10,0

このときの状況は囚人のジレンマになっている。
両方とも反対するため駐車場は作られず、ともに利得は0になる。

そこで、双方とも賛成したときのみ、駐車場を作ることにする。

フリーライダーの問題と多数決1
ベーカリー
賛成反対
まちのパン屋賛成2,2-0,0
反対0,00,0

このとき、両方とも賛成するのはナッシュ均衡である。(両方とも反対するときもナッシュ均衡であるが、被支配戦略である)

駐車場の建設により増えるベーカリーの利益が5万ではなく2万だったとしたら、利得は2万(増える額)-3万(駐車場建設に支払う額)で-1万になる。

フリーライダーの問題と多数決2
ベーカリー
賛成反対
まちのパン屋賛成2,-10,0
反対0,00,0

このとき、ベーカリーは「反対」が弱支配戦略である。両方とも賛成する戦略の組はナッシュ均衡になっていない。

まちのパン屋が駐車場台を1.5万円肩代りしたとする。


フリーライダーの問題と多数決3
ベーカリー
賛成反対
まちのパン屋賛成0.5,0.50,0
反対0,00,0

この場合は、両方とも賛成するのが均衡である。

しかし、実際は他の店がどれだけ儲けるのかは分からないという情報の問題があり、自己申告に委せると「儲からないから肩代りしてくれ」という嘘をついた方が得になる。


ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志 松井彰彦 6オークション 4

入札と談合

談合
複数の業者が示し合わせて、落札する業者や落札価格を事前に決めてしまい、結果的に入札の制度そのものを骨抜きにしてしまうもの。

談合が起きると、資源配分の歪み(税金の無駄遣い、など)が生じる。

話し合いそのものは、談合を成立させない。(相手を裏切って、相談した値段より少し高い額を入札するのが優位な戦略となるため)

アウトサイダーの参入なしに、入札が繰り替えされる(くり返しゲーム)と、裏切ると報復を受けて談合の旨味を吸えなくなるため、相談した価格に従うようになる。

くり返し状況における制限された競争は談合の余地を生む。

ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志 松井彰彦 6オークション 2

オークションの比較

売り手にとってどのオークションの形式が好ましいだろうか

競争入札では、1/2 max(V1,V2)が収益
競売とセカンドプライスオークションでは min(V1,V2)が収益

この場合、評価の高い額の方が、評価の低い額の2倍以上のときは競争入札がよく、そうでなければ、競売やセカンドプライスオークションがよい。

一般に、評価額が近いときは、競売とセカンドプライスオークションの方が良い。評価額が離れているときは、競争入札がよい。

ただし、売り手が買い手の評価を知らないので、この比較は役に立たない。(補論1で説明するとおり)実際は、平均値は同じでいずれも1/3となる。「商品に対する評価が個人に独立に与えられている」「商品が必ず売られる」という仮定のもとでは、ほかのオークションの方式でも売り手にとって、これ以上に平均収益を上昇させることはできない。「オークション理論における収益同値性原理」と言う。

個人価値のオークション
品物の価値が各個人に固有のもので、各個人はそれを知っており、評価の分布は独立である

オークションで購入したものを転売したとき、その利益は誰が転売してもさほどかわらないので、その価値は独立ではない上に、どれだけの利益で売れるかは分からないので「各個人はそれを知ってい」ない。

国債の新規発行では国債を競り落とした証券会社はそれを後に転売するが、国債自体はどこの会社が売っても同じ価格になるし、転売価格は競ってるときには分からない。

今回は個人の評価額の分布が独立で等しいケースを扱ったが、それ以外の場合は収益同値性は成りたたない。競売の形式が入札よりも期待収益は大きくなる場合が多い。

実際には学生で実験すると競争入札をすると、入札者が最適な戦略をみつけられないために売り手はもうかる。

「評価額は分からないが、その分布は知っている」という仮定も怪しいが、この仮定なしでいえることは、あまりわかってない。

ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志 松井彰彦 6オークション

さまざまなオークション

公開入札方式

公開の場所で行われる競り売りであり、入札者(買い手)は相互に提示価格を知ることができる。

  • イングリッシュ・オークション(English auction)
    通常のオークションである。入札する買い手側が価格を釣り上げながら、最終的に最も高い価格を提示した買い手に販売(落札)される方式である。
  • ダッチ・オークション(Dutch auction)
    通常のオークションとは逆に、価格が順番に下がっていく。売り手が設定する最高価格から順番に価格を下げていき、買い手は適当なところで入札し、その時点の価格で落札が行われる。取引のスピードが高速化できるので、様々な市場で採用されている。また、バナナの叩き売りもこの一種である。

封印入札方式(sealed bid auction)

入札者(買い手)が相互に提示価格を知ることができない競売である。裁判所の不動産競売は通常この方式で行われる。封印入札方式の代表例として第一価格入札(ファーストプライスオークション)と第二価格入札(セカンドプライスオークション)がある。後者はen:Vickrey auctionスペシャルケースである。

  • ファーストプライス・オークション(First-price auction)

    • 最終的に最も高い価格を入札した買い手に販売され、支払額も最も高い価格に設定される。一般的な形態。
  • セカンドプライス・オークション(Second-price auction)

    • 最終的に最も高い価格を入札した買い手に販売されるが、支払額は2番目に最も高い価格(競合者の最高提示価格。競合者がない場合には売り手側の提示した最低金額)に設定される。ゲーム理論の議論を用いれば、いくつかの仮定のもとでは、均衡において全員が自分の評価額をそのまま入札することが証明できる。

競売 - Wikipedia
戦略的な関係

買い手はなるべく安く競り落としたいが、そのためには他の買い手がどうふるまうかを知ること が重要になる。
他の買い手の入札額は、買い手の商品への評価に依存する。その情報を持っている事が重要となる。

売り手は儲けを最大にしたいが、これも買い手の商品への評価に依存する。

オークションのゲーム表現

次のような例を考える

  • 商品は一つある
  • 買い手は二人いる(B1,B2)
  • B1,B2の商品への評価額はV1,V2
  • 売り手にとって商品はまったく価値が無い
完全情報の場合

売り手が評価額を知っている場合、V1,V2のうち、高い方と直接交渉すればよい。仮にV1>V2だとしたら、B1にたいしV1額をオファーして最後通牒をつきつければ、買い手1はそれを受けいれるのでV1で販売できる。
このとき買い手と売り手の間に生じる余剰はV1円でそれをすべて売り手が取り込む。(これは需要に対する独占価格づけである)

まとめると、売り手が買い手の需要を完全にしっていて自由に価格を決められるとき、商品の取引価格pはmax(V1,V2)となり、余剰はmax(V1,V2)で、それを全て売り手が受け取ることになる。

競売

p≦Vの間に相手が降りてくれれば、自分の利得となるV-pは、自分が降りた場合の利得0より上である。

  • B1は「p≦V1の間は競売に残る」が弱支配戦略
  • B2は「p≦V2の間は競売に残る」が弱支配戦略

そこでmix(V1,V2)=pになった途端に、評価額の小さい方が降りて競売は終了する。

余剰の総額はmax(V1,V2) (競り落とした人間、つまり評価額の高い方の評価額)
売り手はp=min(v1,v2)を受けとる。買い手はmax(V1,V2)-min(v1,v2)を受け取る。

売り手が需要を知っていれば、余剰を全て手にいれる事ができた。つまり、買い手の需要は、その差額分の価値のある情報だった。


今回の議論はn人に拡張してもなりたつ。競り落とす額は2番目に高い評価額となる。

セカンドプライスオークション

自分の評価額を入札金額にするのが弱支配戦略となる。
入札金額をP1,P2とする。

B1はV1>P2のときのみ、商品を競り落としたい。(競り落とすことができれば支払額はP2なので、V1-P2だけもうかる。V1<P2の時、競り落とすと損をする。)

B1の儲けはP1に直接は依存しない。V1=P1にすれば,V1>P2ならばP1>P2なので入札できるし,V1<P2ならばP1<P2となるので競り落とさずに住む。

余剰の総額はmax(V1,V2) (競り落とした人間、つまり評価額の高い方の評価額)
売り手はp=min(v1,v2)を受けとる。買い手はmax(V1,V2)-min(v1,v2)を受け取る。


競争入札

仮定としてV2は区間[0,1]の一様分布に従うとする。
B2はV2以上の値段を入札したりはしないので、P2は0からV2の間になる。
このときB2がV2にたいして割合k(1>k>0)で入札するとする。(つまりP2=k * V2)

V1=0.5,P2=0.4,k=0.8:

このとき,P2=0.8V2なので0.4>0.8V2 つまり0.5>V2のとき、B1は競り落とせる。「V2は区間[0,1]の一様分布」なので、0.5>V2となる確率は1/2
B1の期待利得は0.05(=(0.5-0.4) \frac{1}{2}+0 (\frac{1}{2}))

このようにV1,P1,kが分かれば、買い手にとっての期待利得がわかる。
買い手1にとっての最適反応とは、その期待利得を最大にする入札金額である。kを一定にして一般のケースで考える。

B1が競り落とせるのは、P1>k*V2、つまりP1/k >V2 のときである。
P1/k >V2となる確率は、P1/kである。そこでB1の期待利得は(V1-P1)*P1/kとなる。B1にとってV1は既知なので、この式はkが決っているときにP1を変えたときに期待利得がどうなるかを示している。式変形(平方完成)すると\frac{1}{k}\{-(P_{1}-\frac{1}{2}V_{1})^2+\frac{1}{4}(V_{1})^2\}となるのでP_{1}=\frac{1}{2}V_{1}のとき、期待利得は最大になる。したがって評価額の半分を入札額にするのがよい。

B2の側から見てもそうである。(つまりk=1/2が合理的となる)

売り手からみてみる。

買い手がお互いに相手の評価額は[0,1]の一様分布に従うと想定している事を、売り手が知っているとする。
すると「自然」が評価額V1,V2を決定し、それをB1,B2に内緒に知らせている、という風にみえる。

B_{i}の戦略は,自分の未知の評価額V_{i}に入札金額P_{i}を対応させる関数。

買い手二人の競争入札

  • プレイヤーは2人
  • プレイヤーの戦略の集合は、自分の未知の評価額V_{i}に入札金額P_{i}を対応させる関数の全体
  • プレイヤーの利得は競争入札での期待収益

両方のプレイヤーが自分の評価額がV_{i}なら,入札金額を\frac{1}{2}V_{i}にするという状況はナッシュ均衡になっている。

ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志 松井彰彦 5,情報とゲーム 4

さきほどの混在型の均衡には、経済的な資源の無駄使いからいって問題がある。労働者が資格をとるために労力を無駄にしている。能力の低い労働者が労力を費やしても、高い給料をもらえばわりにあってしまう所が問題である。

企業の高い方の給与を下げたら(ただし3以上)

高給に対応する労働者の利得が減る→能力の低い労働者は資格をとるメリットが、コストをうわまってしまうため、資格をとらなくなり、混合型の均衡にはならない。(搾取されるのは、能力の高い労働者)

資格試験を難しくする。

資格をとるのに、低い能力の労働者の苦労が3単位をうわまわり、能力ある労働者もいくらか労力を費やさなければならないとする。高給に対応する資格をとったときの利得が下がるので、混在型の均衡はなくなるが、高い労働者の利得は下がって、経済的な無駄も生じる

資格試験を簡単にする

誰でも資格をとれてしまうので、能力判別不能時のゲームに戻ってしまう。

まとめ

資格取得を難しくしすぎると資格に応じた給与制度は企業にとっては有用ににあるが、経済的には無駄が生じ、その分能力の高い労働者は搾取される。これは資格取得が優しすぎて能力の判別ができないよりはましなので、資格取得のコストは情報非対称性から生じた必要悪と呼べる。

補足

今回の話では給料の高低によって労働者の生産力は変化しない事を仮定しているが、労働者へのインセンティブの問題は後の章で扱う。